北海道屯田倶楽部

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37兵村が舞台、悲喜劇の実像に迫る

「屯田フロンティア双書」第1弾


 屯田兵1戸当たり1万5千坪(約5ha)給与された公有財産地(公有地)は、屯田兵制度の終末期において、その帰属をめぐる兵村と官側との攻防の舞台となった。全体で1億坪を超える土地は、果たして兵村という団体の財産なのか、それとも兵員の共有財産なのか――。


 日露戦争の勃発や二級町村制の施行、さらには戦後の農地改革など時代の波にも翻弄されながら、37の兵村ではその処分をめぐって悲喜劇が繰り広げられた。屯田兵研究の空白地帯でもあった公有財産問題に、著者は旧兵村の個別調査を重ねる中で資料を掘り起こし、記録を丹念に読み解いていった。


 そこからは、群像としての屯田兵の姿とともに、今、私たちが依って立つマチの地域形成の歴史が、断面を切り開いた「地質図」のように浮かび上がってくる。北海道屯田倶楽部の会報・研究誌『屯田』の第43号から第54号まで足かけ6年間、12回にわたって連載された渾身の研究報告で、「屯田フロンティア双書」第1弾として単行本化されました。

 一節抜粋


  山鼻村の給与地は元々土地が高燥で、給与地を流れる小川も無く水の便が悪かった。そこでこの際公有地の大部分を売却して、その資金で潅漑用水路を掘削し、水田造成や農業用水確保をはかろうと計画し、師団に認可を申請した。この頃、道北の永山、旭川などの屯田兵村でも同じような計画を申請して認められている。ところが、どういう訳か山鼻屯田の場合、全ての公有地の売却申請が却下されてしまった。

(第1章 公有財産法人化の挫折より)

著:河野民雄

編:北海道屯田倶楽部

刊:地域メディア研究所

2014年2月発行

2,000円

 構成と主な内容

第一章 琴似・山鼻兵村、公有財産法人化の挫折 

土地の所有権の確立が遅れた上、兵役満了を前に公有地の帰属さえ明らかでない中で、土地処分に苦悩する屯田兵初期の琴似、山鼻兵村。

第二章 あくまで法人化を目指した篠津、新琴似兵村 

公有地の法人化に活路を求めた篠津兵村、巧みな運用で法人化に成功したかに見えた新琴似兵村、結局両兵村とも一般移民の反対で普通の部落に戻る。

第三章 不動産会社を立ち上げた野付牛兵村 

二級町村の要件を満たさず正式部会が置かれなかった太田、輪西、野付牛兵村。北見では、土地売却目的の合名会社の設立により一大騒動が巻き起こる。

第四章 新制度移行期に不祥事続発 

公有財産が屯田兵だけのものにならないと察知した東旭川、当麻、美唄、滝川、篠津などが切羽詰まった行動に走る。その一方で一己兵村は全てを村に寄付。

第五章 公有地全てを稲作に投じた兵村 

稲作のための灌漑溝掘削に公有地を注ぎ込んだ東旭川、当麻、永山、篠路兵村。新方式移行期に唯一村に寄付した秩父別兵村も目的は灌漑溝造成。

第六章 士別兵村最終処分で大もめ 

村への公有地寄付案は、兵村を二分する大激論に。公有地処分の残金配分では、不満が噴出して再度大もめ。ついに決着は裁判所へ持ち込まれる。

第七章 最終処分の優等生、相内、江部乙兵村 

凶作に苦しむ農民救済に一部を充て全公有地を村に寄付した相内。士族屯田からの侮蔑に反発、全てを寄付して滝川村から独立を勝ち取った江部乙兵村。

第八章 定着率が高く、長期保有した南・北湧別兵村 

屯田兵が多数残る中で長く公有地を保持して苦しい村の財政を支えた湧別兵村。公有地の運用益を水田造成の補助金とするなど村長の苦労も多かった。

第九章 戦後まで保持した野幌、江別、端野兵村 

泥炭地に挑み少ない公有財産を長期保持した江別。戦後の農地改革まで保持した端野。一般移民も含め巧みな運用で、全道で最後まで持っていた野幌。

第十章 士別村に置かれた輪西屯田兵村部会 

兵員ゼロの士別に輪西兵村部会誕生。士別に公有地の一部を譲渡し肝心の輪西には、室蘭に合併後まで部会設置せず。

第十一章 多数ある最終処分不明の兵村―まとめとして 

町村合併を重ね結末が分からない山鼻、公有財産が種代になった和田、次々転売された茶志内、詳細な「兵村史」を残した納内も最終処分は不明。

第十二章 屯田兵恩給支給運動の明暗 

念願の恩給獲得に漕ぎ着けたが、支給基準にわずかに足りない兵員に不正ありと関係者多数が憲兵によって逮捕。軍部増長時代のことであった。


【資料】  

  屯田兵村の配置図 

  屯田兵土地給与規則 

  公有財産取扱仮規則 

  兵村別屯田兵の服役期間の推移一覧表 

  屯田兵公有財産関連年表