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#唯一の収入の小豆運搬にも苦労した
  
 
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2013年7月29日 (月) 17:32時点における最新版

目次

[編集] プロフィール

辻本 弥吉 (北一已 明治28年5月入地 大阪府出身 兵屋番号101番)

[編集] 出典元

 『屯田』第17号 < 『一已村開拓五十年記念誌』(昭和19年)

[編集] 要旨

  1. 函館本線建設のためバラス上げの作業に従事した
  2. 馬そりをひく道産子の扱いが大変だった
  3. 家族らを動員してのバラス作業は1日1円になった
  4. 雨が降ると道路はヒザまで泥に浸かった
  5. 唯一の収入の小豆運搬にも苦労した

[編集] 証言内容

  1. 入地当時の逸話的なものですか。ずいぶん長いことになりますので、すっかり忘れてしまいましたよ。だが、折角ですから夢のような、五十年の昔をまぶたに浮かべながら二、三申しあげましょう。現役当時、たしか三十一年ごろでしたか。当時、函館本線の建設に必要なバラス(砂利)、いわゆる建設バラス上げはたいへんにぎやかでした。なにせ、昼間は練兵に出なければならないし、時期は三月ごろでしたので、太陽が高くなると雪解けのため道は悪くなるし、どうしても朝のうちに作業を終わらねばなりません。
  2. それで、宵のうちに準備をして置いて、十二時にはもう現場に着いて仕事を始めるのです。馬そりをかけて出かけるのですが、また、その馬がご承知でもありましょうが背が低く、頭ばかりがいやに大きく、しりの縮まったいわゆる土産馬ですね。カンがばかに強く、おまけに近ごろの馬のように去勢されていませんから、多数集まると群集心理を遺憾なく発揮し、どだいいうことを聞かない。お互いにかみあうは、けるは、いななくはで、いや、まったくにぎやかそのものでした。また、それを御する者が血気盛りの若かったわれわれでしょう。何を、というわけで馬のしりを嫌という程なぐりつける。なぐった力が強すぎて、馬のしりに風穴ならぬ穴をあけて、ヤーヤーといってもう終わり、というようなわけでした。
  3. バラスを上げた場所は、今の女学校(現深川東商業高校)付近だったでしょうか。距離はせいぜい二町か三町くらいのものでしたが、バラスの上げ下ろしに二、三人の家族の者を手伝わせ、一回に四勺(〇・二四立方メートル)くらいしか運べない。一坪(六立方メートル)のバラスを運ぶのに、二五回ほどやらねばならなかったものです。一坪運び終わると七時ごろ。そろそろ道も解けはじめるし、練兵にも出かけねばならないし、これで作業を切り上げというわけです。この賃金がなんと一坪一円です。馬一頭、馬追い一人、手伝いの家族人夫三人。時間にして六時間ないし七時間でこれですから、今考えるとまったく夢のようです。もって往時の貨幣価値を知ることができます。
  4. つぎに、これはたいへん難儀をしたことですが、道路の悪かったことです。ことに五丁目道路は秩父、多度志方面から深川に出る人がこの道路を主として使用したことと、中ノ沢方面から木材を出すのに通ったことで交通がはげしく、たいへんいたみました。まったくバラス気等は一つもなく、雨でも降ろうものなら一歩も歩けないという状態でした。当時の履物といえば、ゾウリが最も多く用いられ、ゲタ等はとてもはけませんでした。この文字どおり泥ねいひざを没するぐちゃぐちゃ道路に、わずかに割り板を並べて通るときのつらさは、実に今お話申し上げてもご想像願えますまい。
  5. これが、人間だけ通るのならまだしも、そのころのただ一つの資金となる小豆を、馬車に二、三俵積んで時雨空の泥ねいに馬を駆けるのです。一寸二分(三六ミリ)の馬車の細紬はめり込んで、テコでも動かない。馬の脚は正にひざまで没して、これまたどうにも仕様がない。今もなお、このときの状態がはっきりと、眼の底に焼きついています。

  
(つじもと・やきち=一番通り五丁目入植元屯田兵。大阪府出身)

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