北海道屯田倶楽部
Book Guide
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北海魂の人 小林博明の半生
開拓の歴史が浅い北海道では、「伝統」とか「お家の大事」という言葉が用いられることは少ない。それらに似た語感としては、しばしば「DNA」とう表現が使われる。この本の主人公の半生も、いわば「屯田兵のDNA」によって突き動かされてきたとしか思えない。
曾祖父は旧小倉藩の藩士だったが、維新の後に実り豊かな福岡の地も資産も捨て、年若い長男を戸主として蝦夷地に新天地を求めた。過酷な条件に耐えかねて逃げ出した屯田兵も少なくない中で、一家を支えたのは、鎌倉武士につながる一所懸命の精神だった。しかし、その「一所」に戦後の農地改革の荒波が押し寄せた—。
当時、旧制中学の学徒だった三代目の主人公は、進学の夢を捨てて立ち上がった。筆者は、主人公の聞き書きを元に、その姿を克明に再現していく。読み進むうちに、札幌という街の戦後の発展もまた、「屯田兵のDNA」によって支えられてきたことを知らされる。山あり谷ありの企業経営を「武士は相身互い」の精神で切り盛りしていくさまにも、学ぶものが多い。
一節抜粋
「士」と「農」の源はもともと一つのもの。だがそれとは別に、単に耕作に従事するだけの生涯で終わりたくないという思いが、士族屯田兵達の間に強かったであろうことも想像に難くない。「野人」を標榜しつつも、しばしば都会的な匂いを感じさせる小林に流れているのも、その血なのだろうか。
(第3章 不死鳥といわれてより)
聞き書き編集:若林滋
刊:中西出版
2007年8月発行
1,200円